果たしてワクチンは輸入されるのか?

 2009年9月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会から送られた東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学講師 森兼啓太氏の論文を抜粋します。

 『国産ワクチンの数量が絶対的に不足しているのは前から明らかであり、輸入について検討するのは当然である。しかし、輸入ワクチンの確保については不透明な部分が多く残されている。まず、厚労省は交渉中ということを理由にその詳細を明らかにしない。本日の会議資料やパブリックコメントの資料でも、A社、B社という表現になっているが、うち1社がノバルティス社であり、日本で臨床治験の実施を検討していることはすでにメディアで報じられている。アジュバント(免疫増強剤)についても同社のワクチンであれば比較的使用経験の浅い、アルミニウム製剤ではないものであることは明白である。しかし、そのことも昨日の資料には記載されていない。

 7月30日の意見交換会の場では、海外メーカーとワクチン輸入の交渉中であることが紹介され、上田健康局長が「ワクチンを輸入することに強い反対のご意見がないことをこの場で確認したい」と述べていた。出席者は基本的にワクチン輸入に反対していなかった。それならば速やかに輸入に向けた条件整備を行なうのが当然であり、その後5週間以上かかっても交渉が成立しないのであれば、その理由を明らかにする必要がある。
7月30日の会議では、海外ワクチンメーカーが日本にワクチンを売る条件として免責を求めてきており、これが最大の障害になっているとの説明がなされた。本ワクチンは十分な使用経験のない状態で多数の人に接種される。

 10000人程度の臨床試験を行なっても、まれな副反応は検出されないだろう。何千万人もの人に接種してはじめてわかるような副反応などにより、接種者である医師や医療機関、国、製薬メーカーが責任を問われて訴訟の対象になるのなら、誰も本件に関わりたくないであろう。今回のワクチンに限り、無過失補償・免責制度を制定すべきである。しかし、それについても厚労省内で議論した形跡があまり見えない。

 筆者は昨日の会議でこの点を質問したが、一応検討しています、という程度の回答であった。厚労省はこのままのスタンスで交渉を続け、時間切れを待っているのだろうか。専門家や各種団体の代表者を集め、何度も会議の場に呼び出しているのに、公開する情報があまりにも少なすぎる。

 本日の会議でいみじくも、国立感染症研究所・インフルエンザウイルスセンター長の田代氏が「こうなることがわかっていながら、なぜ輸入に関する交渉がここまで遅くなったのはどうしたことか」という趣旨の発言をしていたが、まさにその通りであり、輸入ワクチンの検討や交渉開始がなぜここまで遅くなったのか、交渉がまとまらないのはなぜなのか、これらの疑問はしかるべき時に徹底的に検証されるべきであろう。
 
 一方で同じ田代氏が、国産ワクチンを最大限に活用すれば輸入は必要ないのではないかという発言をしている。国産ワクチンは現時点で約1,800万人分が供給可能と厚労省は推定しているが、これは2回接種、かつ1mLバイアルで出荷した場合の数値である。まず1mLバイアルを10mLバイアルに変更すれば、瓶の底や壁に付着して失われるワクチンが相対的に減少するため、供給可能なワクチンの人数分が若干増加する。さらに2回接種をやめ1回とすれば、2倍の人が接種可能となる。これによって、最大6,000万人分のワクチンが供給可能になり、輸入分は不要という理論である。
 
 これらの方法は一見良さそうにみえるが、1人あたり0.5mLずつ瓶から吸うため、1本の瓶を20回穿刺することになり、それだけ微生物による製剤の汚染の機会が増す。どこか一点で汚染すれば、それ以降に接種を受けるすべての人にリスクが生じる。小児はこれより少量の接種なので、さらに穿刺する回数が増える。

 また、このような製剤は通常のワクチン接種で行われていない。慣れない方法での接種は注射器の取り違いや再使用による血液媒介性疾患(B型肝炎やHIVなど)の被接種者間伝播のリスクを増す。しかし、取り違いなどが発生した時、国はその責任を取らず、接種者である医師に帰するであろう。

 問題はまだある。バイアル製剤の使用の原則は、一旦使用を開始したバイアルを速やかに使い切ることである。冷蔵庫に保管し翌日まで持ち越すことは好ましくない。とすれば、接種医療施設では20人単位で接種者を集めなければならない。その調整も医療機関が行うのであろうか?1mLバイアルであれば2人単位でよいので、接種人数が中途半端になっても廃棄するワクチンは最大1人分である。もし20人ずつ接種ということであれば、それこそ保健センターで予約制にて行なうべきではないだろうか。

 田代氏には、日本のインフルエンザワクチン研究の中枢にいる人物として、製造や供給、接種体制など広い視野からの発言が求められている。様々な議論は必要だとは思うが、輸入ワクチンは掛け捨て保険であり、輸入しても使わないことも想定しておくべきと言ってきた田代氏がなぜここにきて輸入反対(不要)論を唱えているのか、理解に苦しむ』

 私も本当に理解に苦しみますが、田代氏にとって有益な何かがあるのかもしれません。


2009年9月12日