新型インフルエンザで騒がれる“検疫”とは何か?

 朝から新型(豚)インフルエンザに関する報道が繰り返されています。この中で“検疫強化”という言葉を耳にしますがはたして“検疫”とは何なのでしょうか?検疫を規定する法律である“検疫法”を何度読んでも定義がどこにあるのかはっきりしません。
 
 これに対してアメリカの“検疫(quarantine)”と“隔離(isolation)”には明確な定義があります。isolationとは病気にかかった人を集団から遠ざけるのに対して、quaratineは、病気を発症(咳や熱などの症状が出て病原体をまわりにまきちらす)していなくてもウイルスや細菌などの病原体に感染(体の中に入っている)したいる人たちも含めて一般集団から隔離することを言います。

 隔離は物理的な隔離だけではなく、薬を使った隔離ということもあり得ます。新型インフルエンザとは違いますが、結核の薬が見つかってからサナトリウムに患者を入れる必要はなくなりました。これは結核の薬が1週間程度で効果を示すため物理的に患者を隔離する必要がないためです。このため抗結核薬を使った治療を「化学的隔離」と呼ぶことがあります。

 少し話がそれましたが、感染したからと言って発病するわけではありません。どのくらいの頻度で発病するか、感染してからどのくらいの時間で発病するか(潜伏期)は病原体ごとに違います。例えばインフルエンザは、感染するとかなり高い確率で発病しますし、感染してから発病まで約7~10日です。しかし結核の場合は感染者のおよそ10%程度しか発病しませんし、潜伏期は1年未満から寿命と同じくらいです。

 この理屈から考えると、潜伏期が長いものの検疫は実際には困難なことがお分かりになると思います。結核の感染者を何十年も隔離することなど不可能に近いことです。

 この他、感染者の隔離についてはさまざまな問題があります。場所の確保、感染者の世話をする人たちの確保に加えて、人にうつす病気ですから自分の身も感染から守らなければなりません。このための知識やトレーニングも大きな問題です。
 
 また、人道的、政治的な側面も大きな問題です。昨日在日米軍の危機管理報道官から電話がありました。「日本政府の対応は、感染している可能性があれば隔離するということであるが具体的に決まっているのか。我が軍としては日本政府の決定に従いたいと思っているが、司令官が部隊に命令を下すためには政治的なコミットメントを含めて十分な説明が必要であるので教えてほしい」というものでした。

 感染者を含めた物理的隔離は「社会全体を守るために絶対的な必要性があり、かつ有効な手段である」ことがわかったもの以外は強要すべきではありません。

 例えば天然痘は封じ込め可能な疾患であり、隔離と予防接種により地球上から根絶された感染症です。それは、天然痘の症状が他の感染症と区別でき、100パーセント近い予防接種の効果があるからです。

 はたして新型インフルエンザはどうでしょうか?症状も普通のインフルエンザとはっきりしない。重症なカゼや肺炎とも見分けがつかないことがあります。ワクチンの効果も不明です。

 今までの新型インフルエンザ対策をみていると、厚労省は“検疫”という言葉の本当の意味を知らないのか、それとも“検疫”の持つ社会的重大性を理解していないのかどちらかではないかと疑いたくなります。

2009年4月28日