新型インフルエンザワクチン

 インフルエンザワクチンに限らずワクチンの有効性を調べるには何十年にもわたる調査が必要です。具体的にはワクチンを打ったグループを打たないグループに分けてどれだけ病気の発生の違いがあるかで評価します。AIDSワクチンもこうした方法で調べられていますし、古い例では結核ワクチン(BCG)も何十年の追跡調査を経て効果が議論されました。

 しかし今騒がれている新型インフルエンザはまだ人間界にあらわれて新しいので当然このような研究は出来てはいません。「新型ワクチンは有効である」と報道されるのは、動物実験やあるいは細胞を使って行う研究室での研究結果からです。

 しかし、人は動物とは違いますし、試験管の中で効果があったからといって果たして実際の人間集団で効果があるかどうかははっきりしません。そのために何十年もにわたる調査(疫学調査)が必要なのです。

 仮に新型インフルエンザのワクチンが効果があるとしてもいくつかの問題点を考えた上で導入する必要があります。

 第1に、インフルエンザウイルスは頭がよくすぐに顔を変えるので、今の流行から何カ月かすると顔を変えている可能性があります。日本の現状では、今世界で流行している新型インフルエンザに対するワクチンを作るのに半年ぐらいかかるといわれていますので、作った頃には、もはやワクチンが効かないウイルスに変わっている可能性が大です。もっと早くワクチン生産がおこなわれるシステムを整備しない限り、何ヶ月後には社会的なパニックを起こすことが十分考えられます。

 第2に、ワクチンの効果を評価するにはどこでどれだけどんなタイプのインフルエンザウイルスが流行っているかを継続的に調べる必要があります。これをサーベイランスを呼びますが、日本ではサーベイランスがほとんど行われていません。

第3にワクチンを打つ際の優先順位を決めておかなければなりません。とかくプライオリティを決めるのが下手な日本人。国民にわかりやすい説明が求められます。特に変異した後の新しいワクチンは現状のシステムでは不足することが考えられます。その際にどうするかは「えいや!」と見切り発車する前に「想定外でした」などという説明を繰り返すことがないように慎重にすべきです。

 第4に副反応の問題です。副反応のないワクチンは存在しません。時には死亡することもあります。日本は特にこの副反応に対するリアクションが強いのです。そのため「死にいたる感染症」である麻疹(はしか)のワクチンも十分に行われていません。今回の新型インフルエンザワクチンで重症の副反応が出た際の対応や国民への啓発が不可欠なのですが、今の厚労省にそんなことをする余力があるとは到底考えられません。

 以上から言えることは、新型インフルエンザワクチン導入に関してはワクチンの効果そのものの問題ではなくロジスティクスや社会的な方面から多角的な考察をしてから導入すべきと考えます。

 ひとたびワクチンが導入されれば一般国民はワクチンを求めて医療機関や地方自治体に押し寄せるでしょう。一つ間違えれば「ワクチン至上主義」が生まれる可能性もあります。実際、有効性がはなはだ疑わしく、多くの先進国が導入していないBCGについても過剰なまでのBCG至上主義が存在しています。

 新型インフルエンザの対策は多角的に考えるべきです。「検疫」「ワクチン」「タミフル」の3種の神器が万能ではないことをきちんと国民に知らせることこそが厚労省が早急に行わなければならないことです。そうでなければ今後国内に患者が発生した際、パニックや訴訟にみまわれることは火を見るより明らかだからです。

 すくなくともこれら3つの問題点に関して責任を負えるのであればワクチン推奨をすべきだと思います。逆に、現時点でワクチンを積極的に推奨するのであればすべての責任を負う気構えが必要なのではないでしょうか。

 日本は公衆衛生に関しては先進国ではありません。ですから欧米がうまくいったといってもそれを日本に当てはめるのはとても危険なことです。今回の新型インフルエンザのが国内に入るのは時間の問題ですが、何カ月か後にくる第2派に備えてどのように行動するかが大切です。「日本は過去から学ばない」の汚名挽回をすることこそ今回のもっとの重要なレッスンだと考えます。

2009年5月3日